ホーム » 投稿 » コラム » 日本映画 » アイドルの”闇”になぜ共感? 男性より女性ファンが多いワケ『【推しの子】』考察レビュー。社会現象アニメの魅力を解説 » Page 4

女性アイドルが背負う「偶像」という十字架

©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会
©赤坂アカ×横槍メンゴ集英社推しの子製作委員会

もちろん、芸能人は「若さ」の市場価値が一般人よりも高いので、稼ぎ盛りのうちに家庭に入らない方が望ましいという、大人の事情はあるだろう。

しかし、同じ芸能人であっても、たとえばアイドルではなく女優であれば、恋愛は芸の肥やしと言われることもある。また、同じアイドルでも女性アイドルより男性アイドルの方が、まだ恋愛へのタブーの印象が少ないように思う。ここから推察するに、女性アイドルという職業は、その語源である英語「idol」の本来の意味の通り「偶像」という役割が大きいのではないだろうか。

ファンからの偶像崇拝を受ける対象だから、神様のような自分でいなければならない。清らかで美しくてキラキラした存在でいなければならない。むしろそれこそがアイドルの本質的な仕事であって、歌やダンスはそれを表現するための手段にすぎない。

だから、もしファンが思い描く偶像と違う部分が本人にあったとしても、嘘をついてでも隠し通さなければならない。なぜなら夢を見せ続けることが仕事だから。

こうしたアイドルの本質的な部分を、最大限に誇張した設定で描かれたのがアイというキャラクターだと筆者は思う。

彼女はキャラ立ちすることで目立ったり、『B小町』というグループの看板ありきで売れているアイドルではない。まさにオープニング主題歌の歌詞の通り、誰もが目を奪われ、金輪際現れない、唯一無二のアイドル。わざわざ『B小町』の他のメンバーと差別化などしなくても、ただ存在するだけで、良くも悪くも周りを食ってしまう。

アイは、少なくとも1話を見る限りは、妊娠してもごく軽いノリで嘘を貫き通すアイドルだ。だが、裏を返せばファンを騙し続ける勇気があり、騙すことすら愛だと言い切れる信念を持っているとも言える。

それが意識的か無意識的かはさておき、彼女はアイドルという職業の本質を理解していた。劣悪な家庭環境で育ち、人を愛したことも愛されたこともない彼女にとって、自分が死ぬ間際になって初めて子ども達に「愛してる」と言えるまでは、ファンからの偶像崇拝に応えて、ファンのイメージ通りの自分でいることが、誰かを愛することの代わりだったのかもしれない。

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!