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なぜ『アイドル』の歌詞に「嘘」という言葉が頻出するのか? YOASOBIによる『推しの子』主題歌に隠された意味を徹底考察

text by 唐梨

ヒットソングメーカー「YOASOBI」。2023年米ビルボードランキングで第7位と快挙を果たし、同年、紅白歌合戦では国内外のアイドルたちとコラボし、伝説となった。キャッチーで耳に残る楽曲はもちろん、アニメを理解した歌詞が最大の魅力と言えるこの曲の特徴を、アニメ『【推しの子】』星野アイの生き様から紐解いていく。(文・唐梨)

一番の歌詞は「ミステリアス」

YOASOBI。(左から)ボーカルのikura、コンポーザーのAyase
YOASOBI左ボーカルのikuraGetty Images

まず、初めに「アイドル」という楽曲の概要を簡潔に説明しよう。コンポーザーのAyaseとボーカルのikuraによるユニット「YOASOBI」が2023年4月に発表した、19枚目のデジタルシングル。2023年、6月に発表された、米ビルボード・グローバル・チャート“Global Excl. U.S. ”では首位を獲得。さらに同年、Apple Musicが発表しているグローバルトップソング100では、世界第7位にランクイン。日本はもちろん韓国でも社会現象を巻き起こし、曲に合わせてダンスする動画が流行した。

2023年12月31日に放送された「第71回紅白歌合戦」では、満を持して国内テレビで初披露され、出演者であった乃木坂46、NiziU、anoをはじめ、韓国からNewJeans、Stray Kidsなど、国やグループの垣根を超えた豪華なコラボレーションを果たした。

日本のみならず世界中でブームを巻き起こし、今やYOASOBIの代名詞ともなったこの曲が知られるきっかけは、テレビアニメ『【推しの子】』のオープニングテーマとしてである。通常の楽曲制作とは異なり、本曲は、漫画原作者である赤坂アカがYOASOBIのために書き下ろし、特設サイトで公開されている『【推しの子】』のスピンオフ小説『45510』を元に制作されたという。

つまるところ、本曲は『【推しの子】』の世界観に基づいて制作された楽曲なのである。したがって、本曲の歌詞を細かく見ていくことは、アニメ『【推しの子】』を深く理解するヒントになるのではないか。本稿では上記の仮説のもと、筆を進めていきたいと思う。

歌詞に目を向けるとまず目を引かれるのは「完璧」「天才」「究極」「完全」などのパワーワードだ。いかに彼女が華やかでカリスマ的存在なのかを、これでもかと言わんばかりに伝えてくれる。と同時に、より重要なのは「嘘」という単語が頻繁に使われているという点である。

『何を聞かれてものらりくらり』

本曲では、アイの「完璧」さを喧伝する一方、のれんに腕押しな飄々とした態度、何を考えているのか分からない食えない奴であることが早々に示唆される。メディアを通したファン目線で見た外側のアイ(完璧なアイドル)と、彼女の実際の心を映した内側のアイの、両方が伝わる部分だ。

だがここでポイントなのは、アイが嘘をついていることは分かっても、アイの本心が何なのかは分からない点である。なぜ嘘をついているのか、どんな嘘をついているのか、冒頭の歌詞だけでは、聴き手には分からない。

もちろん、原作を読んでいれば「現役アイドルなのに妊娠し、メディアには隠し通し、そのうえ引退せずに出産後に何食わぬ顔で復帰してアイドルを継続している」ことが嘘だと分かるが、それはあくまで嘘の一つに過ぎない。「妊娠を隠した」という表面の行動は結果論に過ぎず、彼女の「嘘」はもっと深い心の部分に根差しているはずなのだ。

でもそれが何なのかは分からない。この掴めそうで掴めない感じが、まさに「何を聞かれてものらりくらり」な星野アイである。

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