「三度目の正直」には魔法がかけられている。映画『サマーウォーズ』論【前編】細田守の代表作を深掘り考察&解説レビュー
text by 伊藤弘了
名匠・細田守監督初の長編オリジナル作品『サマーウォーズ』(2009)は、公開から15年経った現在でも、夏の風物詩として日本のみならず世界中の観客から愛されている。そんな不朽の名作を映画研究者の伊藤弘了が深掘り解説。細部に着目することで、隠された魅力を浮き彫りにする。(文・伊藤弘了)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール 伊藤弘了(いとう・ひろのり)】
映画研究者=批評家。熊本大学大学院人文社会科学研究部准教授。1988年、愛知県豊橋市生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。京都大大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。小津安二郎を研究するかたわら、広く映画をテーマにした講演や執筆をおこなっている。「國民的アイドルの創生――AKB48にみるファシスト美学の今日的あらわれ」(『neoneo』6号)で「映画評論大賞2015」を受賞。著書に『仕事と人生に効く教養としての映画』(PHP研究所)がある。毎日新聞社が運営する映画情報サイト「ひとシネマ」にて「よくばり映画鑑賞術」を連載中。
三回繰り返される「よろしくお願いしまぁぁぁすっ!!」
【図1】『サマーウォーズ』細田守監督、2009年(DVD、バップ、2010年)
二度あることは三度あり、そして三度目には定の目が出るものと相場が決まっている。物語においてはしばしば同じ出来事が三度繰り返され、そして三度の結果がもっとも重要な意味を持つ。どうやら「三度目の正直」には人を感動させる魔法がかけられているらしい。
その魔法の効力は『サマーウォーズ』(細田守監督、2009年)終盤の「よろしくお願いしまぁぁぁすっ!!」にも及んでいる。劇中では同様のセリフが三回繰り返されており、終盤にあらわれるそれがその三度目に当たっている。
反復は必然的に差異を呼び込む。劇中をうねりながら流れてきた伏流水はここで合流し、一挙に水量を増して最高潮へと達する。じっさい、水圧の急激な高まりは、健二(神木隆之介)の鼻血として、あるいは温泉の湧出として【図1】、はたまたとめどなく噴き出す高校球児の汗や涙として表象されており、物語のクライマックスを視覚面から支えている。