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画面を注視すると見えてくる「着替え」のテーマ

『サマーウォーズ』細田守監督、2009年(DVD、バップ、2010年)

【図4】『サマーウォーズ』細田守監督、2009年(DVD、バップ、2010年)

 一度は窮地に陥る展開まで含め、物語の骨法にしたがって最終的には夏希が勝利をおさめる。彼女が最後に上がった「五光」は、花札(こいこい)における最高位の役であり、後光(光背)を背負っていたラブマシーン(一回目の変化姿、レビュー前編の【図2】参照】)を打ち破るのにふさわしい役である。

 自身が取り込んだ四億のアカウントを失ったラブマシーンは、最初に乗っ取った(OZの世界に顕現した際の)健二のアバター姿に戻る。仏の顔も三度まで。ラブマシーンの変化は三回までで、四度目はなかった。

 やや脇道に逸れるが、実は劇中の他の主要登場人物もわかりやすく三種類の衣服を見せている。たとえば高校球児の息子・了平(安達直人[彼は劇中で三試合に登板している])を持つ由美(仲里依紗)は野茂英雄、斎藤隆、松坂大輔という三人の日本人メジャーリーガー(いずれも投手)のユニフォームを日替わりで身につけており、四日目には一日目と同じ野茂のユニフォームを着ている。

 健二も同様に三種類の衣服を着回していて、初日と四日目の服装が同じである(劇中では健二たちが陣内家で過ごした三泊四日[7月29日〜8月1日]が描かれている)。

 ラブマシーンの姿に関しては厳密に言えば、キングカズマを取り込んでマイナーチェンジを果たした姿をカウントするかどうかによって、見せた姿が三種類なのか、変化が三回なのかに違いは生じる。だが、いずれにせよ「三」という数字を導くことはできる。

 数え方よりも重要なのは、キングカズマのアバターを取り込んだ際に、わずかとはいえラブマシーンが明確に変化を遂げている(ウサギを模った巨大な耳を生やしている)点だろう。

 変化を「着替え」と言い換えるなら、佳住馬にはまさに着替えに関係する場面があてがわれているからだ(レビュー前編で彼を「準主人公格」と見なした一因である)。

 佳住馬が少林寺拳法の鍛錬に励んでいるところにやってきた彼の母親は、わざわざ「佳住馬、着替え」と声をかけている(このあとのシーンで、佳住馬の三度目の正直が描かれる)【図4】。

 彼が翌日の栄の誕生日会で着ているのは、まさにこのとき母親が持っていた服である。

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