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青春を賭けた延長戦の行方

『サマーウォーズ』細田守監督、2009年(DVD、バップ、2010年)

【図5】『サマーウォーズ』細田守監督、2009年(DVD、バップ、2010年)

 夏希に敗れたラブマシーンは、最後の悪あがきよろしく、あらわしの標的を陣内家に切り替える。

 落下までの残り時間は十分を切っており、もはや任意のコース変更は不可能である。健二はGPSの原子時計に偽の補正情報を入力して陣内家への直撃をどうにか回避しようと考え、そのために、ラブマシーンが変更したパスワードの突破を試みる。

 健二が劇中でRSA暗号(らしきもの)の解読を試みるのはこれで三度目である。最初はOZから送られてきた謎のメールに記載されていた暗号を解き(答えの英文を一文字だけ間違えるが、返信してしまったことでアカウントを乗っ取られる)、二回目は大混乱に陥ったOZを救うために暗号を正しく解読してみせる。ただし、これによってもたらされたのは仮初の平穏にすぎず、混乱の元凶たるラブマシーンは依然として野放しのままであった。

 映画の冒頭では、健二があと一歩のところで数学オリンピックの代表になり損ねたことを強調していた。自慢の数学を使った夏希先輩へのアピール(誕生日の曜日当て)も不発に終わっている。

 健二にとって、あらわしの直撃を避けるための暗号解読は、単に三度目の正直であるだけでなく、彼の青春を賭けた延長戦であり、敗者復活戦なのである(その裏では、甲子園出場を賭けて了平のチームが地方大会決勝を戦っており、文字通りの延長戦の末に薄氷の勝利をおさめている)。

 健二が必死に暗号を解いてシステムに入っても、ラブマシーンがすかさずパスワードを変更して弾き出してしまう。この三度目の暗号解読の場面内で、健二は三度の突破をおこなっている(三度目には鼻血を出しながら、暗算で解く)。

 ここでついに佳住馬/キングカズマにも三度目の正直の瞬間が訪れる。ラブマシーンに二度の敗戦を喫しているキングカズマは、侘助によって守備力をゼロにされたラブマシーンに渾身の一発を浴びせ、見事に雪辱を果たすのである【図10】。

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