多幸感あふれるクライマックス
キングカズマの拳がラブマシーンを雲散霧消させたのとほぼ時を同じくして、健二の「よろしくお願いしまぁぁぁすっ!!」が発動する。
栄と初めて会った際の弱々しい「よろしくお願いいたします」や、初日の夕食時に陣内家の面々に紹介された際に照れながら発したか細い「よろしくお願いします」を覆すかのような、万感の思いが込められた力強い「よろしくお願いしまぁぁぁすっ!!」が炸裂するのである【図6】。
それは同時に「夏希をよろしく頼むよ」という栄の遺言に対する答えでもある。三度目の「よろしくお願いしまぁぁぁすっ!!」は、それまで揺らいでいた健二の覚悟が最終的に決まったことを示しつつ、同時に、陣内家が巻き込まれた三度目の「戦争」の終結を高らかに宣言する勝ち鬨(かちどき)として、映画のクライマックスを演出しているのである。
明けて8月1日。危機を脱した陣内家では、栄の誕生日会兼葬式が執り行われている。
噴き出す温泉を背景に、三度の「奇跡」を重ねて優勝旗を持ち帰った了平の涙や、再び流れ出した健二の鼻血に彩られつつ、(訪れた弔問客たちを置き去りにして)平服姿の陣内家の面々は正しく祝祭的なムードを醸し出す。
その様子を見つめる栄の遺影は、(リアリズムを無視して)その表情を変化させ、劇中三度目の、そして最大の笑顔を浮かべる【図7】。
なぜ写真の表情が変わるのか。「三度目」には魔法がかけられているからである。この多幸感あふれるアニメーション映画の掉尾を飾る画面として、これほどふさわしいものはほかに考えられない。
(文・伊藤弘了)
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