NHK朝ドラ『虎に翼』が期待以上の傑作になったワケ(2)涙なしには見れない寅子と優三の名シーンとは?
各所で好評を博している、伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説『虎に翼』。本作は、日本初の女性弁護士になった人物の情熱あふれる姿を描く。物語は終戦を迎え、6月から新章がスタートした。今回は、放送開始から2か月にわたる物語を当時の文化史と共に振り返るレビューをお届けする。(文・田中稲)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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【著者プロフィール:田中稲】
ライター。アイドル、昭和歌謡、JPOP、ドラマ、世代研究を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。「文春オンライン」「8760bypostseven」「東洋経済オンライン」ほかネットメディアへの寄稿多数。
寅子以外の女性たちで描く、様々な女性の「生きづらい事情」
主人公の寅子は、非常に家族の愛と理解に恵まれ、金銭的にも裕福な、あの時代にして、比較的ニュートラルな立場にある。そんな彼女の目を通し、どれだけ女性たちが認められず、家の中や社会の影で泣いていたのかということを、あらゆる方面から見せてくれた。
妻の座を全うする母のはる(石田ゆり子)と花江、学友である華族の桜川涼子(桜井ユキ)、弁護士夫人の大庭梅子(平岩紙)、留学生の崔香淑(ハ・ヨンス)、優秀な先輩の久保田聡子(小林涼子)など、家柄、妻、国籍、個性など、それぞれが大事なものを守りたいだけなのに、とても生きづらい。
涼子さまは家のために望まぬ結婚をし(美しきオールドミスというとんでもない文面で記事まで書かれ)、梅子さんはモラハラ夫に一方的に離婚され(しかも司法試験直前に!)、崔さんは特高に睨まれて帰国するしかなくなり、久保田先輩は、女性初の弁護士として持ち上げられながらも、完璧な妻であり母であることを求められ、仕事を辞める。
最初こそ「みんな、大丈夫だ。なんだかんだ全員夢をつかむ。俺にはわーかーる……」と直道兄さん(上川周作)のマネをしつつ見守っていた私だが、そんなに甘くはなかった。
それぞれに降りかかる地獄。寅子もまた、弁護士の仕事の行き詰まりで苦しむ。ただ彼女には理解者として優三さん(仲野太賀)がいた。その楽しくやさしいフォローは、まさに癒し!
急がず、偏らず、話を聞いてくれる優三さんこそ、一番平等の視点を持っている人ではなかっただろうか。そんな優三さんに遅ればせながら恋をし、寅子がクルクル回転しながら、彼の布団に入るシーンは、朝ドラ、いや、ドラマ史上に残る名ラブシーンといっていい。
しかし5月終盤には、男女関係なく人生を潰す「戦争」という最大の地獄がやってきて、お別れのヘン顔とともに、優三さんは戦争に取られてしまう。そして、喜怒哀楽豊かだった寅子の表情が能面に……。
優三さんの幻影が彼女を励ます5月30日(木)回は、泣けて泣けてしかたなかった。いやはや、すごすぎる『虎に翼』!
(文・田中稲)
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