藤竹が行っていた”実験”
日本でも同じようにできたら。その気にさえなれば、なんだって生み出せるのではないか。
そう思ってはじめたのが、定時制高校に科学部をつくるという“実験”だった。これまで科学に縁のなかった生徒たちを集めて、学会発表を目標に突き進む。定時制であることを理由に苦汁をなめたこともあったが、おおむね順調に進んでいたかに見えた。しかし、現在は空中分解寸前だ。
実験は失敗。仮説は証明できなかった。藤竹は自分のせいで岳人(小林虎之介)を失望させてしまったと、佳純(伊東蒼)、長嶺(イッセー尾形)、アンジェラ(ガウ)の前で謝罪する。
だけど、本当にそうだろうか? 藤竹は、たしかに岳人をその気にさせ、味わう必要のない挫折を与えたかもしれない。きっとあのとき学校を辞めていれば、「頑張ったことを諦めるのは辛い」と泣くこともなかっただろう。
もちろん、傷付かなくて済むのならそれに越したことはない。だからといって、傷付くことがわかっているから手前で諦めるというものでもないはずだ。
痛みなくして得るものなし、というとやや暴力的になってしまうかもしれないが、なにかを頑張る陰には、必ず苦も楽もある。なにより、あんなに楽しそうに実験に没頭していた日々がなかったほうがよかったとは、到底思えない。
「挫折させなくてよかったってこと? そんなのつまんない」と長嶺の妻・江美子(朝加真由美)は無邪気に言った。これでよかったのだと自分を納得させようとする長嶺より、やっぱり彼女は一枚も二枚も上手だ。