世界を生き抜くためのコツとしての孤独
「私は一人でいたいから一人なんだ かわいそうじゃない 同情すんなって そうしないと生きてこれなかったから」
まいこは緑の「威嚇したかった」という言葉が過去形であることに気づき、緑の本当の思いを感じ取った。そして、虎の足元にウンチを描き、小さいときに飼ってたしば犬がウンチをする姿に似ていると笑わせた。
緑のようにわざとひとりになることで自分を守ってきた人は少なくないと思う。この決断にいたるまでには、自分はひとりぼっちなんだという諦観を抱く機会や、人とのかかわりに期待できなくなった数々の苦悩があったと察せる。自分の弱さもさみしさも理解しているからこそ、ひとりでいたいと思ってしまうのだ。
自分の存在を認めてくれる人がいなかったとしても、“ひとりでいたいからひとりなんだ”と思うことで、自分はこの世界でひとりぼっちであること、だれにも興味をもってもらえていない現実から目を逸らせる。他者からひとりだって同情されないように、これ以上傷つかないために先回りしてひとりで威嚇するのは、この世界を生き抜くためのコツの1つなのかもしれない。
そうはいっても、自分自身の心を強固な鎧でおおっていると、その鎧の重さに疲れ果ててしまうことや、誰かのぬくもりにふれたくなることがある。自分から人を遠ざけているはずなのに、それでも他者の存在をまれに求めてしまう。
緑にとってまいことの時間がそうであったように、誰かの優しさに実際にふれてみると心から笑え、人と関係性を築くことは喜ばしいことでもあると恐怖心の中でも感じられることがある。