当事者である親の焦りと不安
実際、からかいの対象になる瞬間もあったが、牧野がしっかりとブロックしていた。「おはようもありがとうも心のなかで言っている」という言葉は子供にもまっすぐと伝わるはずで、すぐに腑に落ちるだろう。
担任の芳野(ホラン千秋)にしても教室の席を最後列に移動させるなどのフォローをしており、周囲の理解によって「場面緘黙」の子を支えることができるのだとドラマを通して改めて教えてくれる。
しかし、いくら学校にいる大人が正しい理解をしていても、当事者の親は不安になってしまう生き物だ。自分たちの前では普通の子供なのに、学校では口を閉ざしてしまう。
クラスメートと関わることが難しいため、将来的に不登校になるリスクを孕んでいると聞けば、なおさらだろう。「黙っていちゃわかんないんだよ」と叱る母の彩(野波麻帆)のことも十分に理解できる。
一方で、彩が偉かったのは娘の小さな成長を決して見逃していなかったこと。交換日記に絵を描けていたことも、おつかいで「これください」が言えたことも、自分の気持ちが伝えられたこともすべて肯定し、小さな一歩として喜びを共有していた。
たとえ、小さな一歩でも大好きな母親から何かを認めてもらうことは子供にとって大きな後押しになるはずで、同じ境遇にある人のヒントになるのではと感じさせる。