稀代のベストセラー作家3人がニアミス
道兼がちやはにぶつけた怒りも、そういう時代の中で蓄積されたもの。直秀(毎熊克哉)ら散楽一座の者たちも日頃から右大臣家を揶揄する劇を披露していたので、道長からの心付けを曲解した検非違使たちによって“始末”された可能性もなくはない。
そうして、ときに誰かが理不尽に命を奪われる社会は、下級貴族であるまひろと上級貴族である道長が結ばれることのない社会と地続きにある。権力闘争という、人が“それ”と認識しづらい戦さ。本作は、そこにまひろと道長が立ち向かった物語ではなかったか。
道長は民のための政で戦のない泰平の世を守り抜き、まひろは女であるゆえに直接政に関わることはできなかったが、彼女が書いた光る君の物語は人々の心を慰めただけではなく、一条天皇(塩野瑛久)や彰子(見上愛)の心を掴み、政をも動かした。
そのせいで一度はまひろと仲違いしたものの、年月を重ねて再び笑い合える仲となった「枕草子」の作者・ききょう(ファーストサマーウイカ)は「まひろ様も私も、大したことを成し遂げたと思いません?」とおどけて言うが、本当にそう思う。なにせ2人の物語は千年以上も語り継がれ、本人たちが知る由もないところで多くの人に影響を与え続けていくのだから。
最終回では、のちに「更級日記」を記す菅原孝標の娘・ちぐさ(吉柳咲良)が登場し、まひろが作者とは知らず、「源氏物語」について熱く語る場面も。彼女が帰った直後にききょうがまひろの家を訪れ、稀代のベストセラー作家3人がニアミスするという文学好きにはたまらない展開となった。