道長とまひろの別れの時
まひろは友人であった倫子のことも傷つけた。倫子が当初、まひろに放った「殿の妾になっていただけない?」という言葉は、少しでも夫に元気を取り戻してほしいという夫への愛情と、正妻としての余裕から来ていたに違いない。しかし、2人が自分と出会う前から深いところで繋がっていたことを知った倫子は衝撃を受け、「このことは死ぬまで、胸にしまったまま生きてください」と告げるだけで精一杯だった。
まひろが賢子(南沙良)のことを話さなかったのは、これ以上倫子を傷つけるわけにはいかないという良心からだと思うが、彰子に仕えている賢子の将来を思う母親としての打算的な判断でもあったのではないだろうか。
しかしながら、そのせいで何も知らない賢子は道長と明子(瀧内公美)の長男・頼宗(上村海成)と恋仲になる。光る女君として宮中の男たちを手玉に取る賢子。それだけなら面白い展開だが、頼宗とは異母兄弟にあたるため、純粋には笑えない。どうか2人がこのまま何も知らないままでいられることを願うばかりだ。
そして倫子が寛大にも許しを与えてくれたおかげで、まひろは道長が息を引き取るまでの数日間を共に過ごすことができた。「新しい物語があれば、それを楽しみに生きられるやもしれん」という道長に、腕の中で三郎のIF物語を読み聞かせ、「続きはまた明日」と締めくくることで“延命”を図るまひろ。
一見、幸せな光景だが、ちはや、直秀、宣孝(佐々木蔵之介)、さわ(野村麻純)、周明(松下洸平)と、幾度となく大切な人を失ってきたからこそ、「幻がいつまでも続いてほしい」と願い、光る君の最期も決して書かなかったまひろに、愛する道長が死にゆく姿を見せるのはある種の罰と言える。