好きだからこそついた嘘
ただ、嘘を聞き分ける能力があるからといって、真実を見極められるわけではない。たしかに、蘭子は失恋をきっかけに家出をした。でも、恋心を寄せていた相手は、柾ではなく鈴乃だったのだ。
左右馬が、それをあっさり見抜いたのも、「やっぱり、素敵だなぁ」と思わせるポイントだった。先入観を持って他人と接することがないからこそ、左右馬の指摘は本質を突くことが多い。
家出した理由について、「わたしが幸せを願っていたのは、嘘だったんだと気づいて、お嬢さんの幸せを願えない自分が、心底嫌になったの。大切なお嬢さんにこんな醜い“本当”を見せたくないし、心にもない“嘘”を言いたくない」と明かした蘭子。
柾が鈴乃にプロポーズしようとしたときも、「もちろん! きっとうまくいくわ!」と背中を押しながら、心のなかでは「うまく行きませんように」と願ってしまっていた。
鈴乃に結婚の報告をされたときも、「おめでとう! お嬢さん!」と喜んだフリをしながら、本当は泣いていたのだと思う。好きな人には、嘘をつきたくない。でも、好きだからこそ、嘘をついてしまう。