優希と広海の間に広がる見えない壁
愛する人が天才で、将来を期待されている場合、その人のそばに自分がいることで、才能の芽を摘んでしまうのではないかと悩むことはある。愛しているからこそ、その人には成功してほしいし、才能を活かして広い世界で輝いてほしい。その一方で、大切な人のそばにいたいし、同じ世界にいたいという思いは簡単には諦められない。
大切に思える人であってもその人に並外れた才能があれば、そばに居続けるのは気後れする。優希は「そのいつかの広海は 東京の街なかで 1杯数百円の紅茶を飲むような そういう広海じゃない そのいつかの広海は 世界のどこかで 紅茶が半分くらいになったら 「おかわり いかがですか?」って聞いてくれる人がいる そういう店にいるんだよ」と、彼の将来を思い描いている。
優希は東京の街中で平凡な暮らしを営む自分と世界中から喝采を浴びる日が訪れるだろう広海との間に見えない壁を感じているのだ。
幼い頃は相手の才能や肩書などを気にせず、気が合う人と親しくできた。しかし、大人になると、いくらフィーリングが合う人であっても、自分よりも才能がある人を前にすると尻込んでしまうし、遠慮もしてしまう。広海のそばにいることを遠慮する優希や、広海が同い年の楓に尊敬の意味を込めて敬語を使っているように。