斎藤工が体現する荒木進平の魅力
進平の最たる魅力は、身体中からにじみ出る陰の空気だ。人を避けているわけではないのに、近寄りがたい。進平の哀しみと斎藤工のもつ色気が、まるで化学反応でも起こしたみたいに“放っておけなさ”を醸成する。
そんな進平と惹かれ合うことになるのは、福岡からヤクザものに追われて逃げてきたリナ(池田エライザ)。事情は異なるが、リナも人には言えない過去を抱えている。
印象的だったのは、精霊流しで海に流した船からお供え物を取り、リナに渡したシーン。進平はリナに、「端島の掟。お供え食べたら、来年返さないけん」と言うのだった。
追手から逃げなくちゃいけないと考えていたリナにとって、未来のことなど頭になかったはず。それを約束させるようなことをさらりと言い、海水を滴らせながら笑顔を見せる進平、もとい斎藤工はずるい。
しかし、結局は端島にリナの追手がやってきてしまう。そこで、進平はリナを助けるために追手と揉み合いになるが、最終的には拳銃で相手を海に沈めた。戦争を経験したからということもあるのだろうが、誠実であることよりも生き抜かねばならないという意志が宿った銃口には迷いがなかった。