平安時代の女性たちが抱えた苦悩と紫式部の視点
出自がよく、立派な着物を身にまとい、教養がある女性たちにも苦悩や葛藤があった。
だからこそ、紫式部は人間の欲望や嫉妬といったダークサイドを「源氏物語」に描けたのだ。まひろは紫式部がモデルとなっているが、まひろの“根の暗さ”は本作において繰り返し述べられているように彼女の特徴だ。
ききょうのように人間の明るい部分のみを描けば対象者の輝きを鮮やかに残しておけるし、その人物の偉大さを後世にも伝えられる。しかし、人間には明るい部分もあれば暗い部分もある。まひろは人間のダークサイドも直視し、一条天皇(塩野瑛久)や内裏で働く貴族の共感を男女問わず集め、政も動かした。
多くの場合、人は心に暗い部分を秘めながら、本音と建前をうまく使い分けながら生きている。だからこそ、書物の中に自分と共感できる人物がいると親しみが湧くし、心の奥底にある思いが言語化されるとはっとさせられる。
紫式部の「源氏物語」が今も世界中の読者を魅了して止まない理由の1つは、読み手が自分を重ねられるから、ではないだろうか。