柳楽優弥の芝居が最も発揮されたシーン
そもそも本作で務めた小森洸人役は柳楽のパブリックイメージと少し異なる。
柳楽といえば、強い目力を活かして映画『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)や『ガンニバル』(2022、Disney+)で狂気性をはらんだ男を演じた時のインパクトが強く、今年出演した『夏目アラタの結婚』(2024)にしても夏目アラタはある種「ネジが外れた」ような主人公だった。
そんな柳楽が、公式サイトで「真面目で優しい青年」と評されている洸人を演じるのだから、初めはミスマッチと認識してしまっても致し方ないだろう。
だが、こちらの思惑を小気味よいまでに裏切り、柳楽は徹底して優しい兄でい続けた。ゆったりとした声のトーンや表情で弟に歩調を合わせる洸人を表しながら、最大の違いを生み出しているのが目だ。
これまでは「次に襲いかかってくるんじゃないか」と恐怖を与えることもあった目を、優しさの代名詞かのように扱っており、口先や顔だけではない人間としての温かみを醸し出している。
常にハイアベレージを叩き出している柳楽の洸人の中で最高のシーンをひとつだけ挙げるとするなら、第5話のシーンだろう。遊園地の乗り物に乗った美路人とライオンを見上げながら、「何なんだよ。疲れるなあ」と漏らす。
一見、場面と意味が通っていないようにも感じられるが、柳楽の演技力をもってすれば最高のセリフとなる。
これまでの思い出が頭の中に駆け巡っていることを目線の動きで見せ、想いを最小限の文字数で表現。ドラマでありがちな心の声や必要以上の一人語りは必要ない。
人の頭の中などのぞくことはできないはずなのに、気づけば洸人の思考が流れ出て自然と読み取れてしまうかのようだった。