坂東龍太の圧倒的な演技
ドラマスタート以前。作品の資料やホームページを読み込んでも、『ライオンの隠れ家』の主旨がぼんやりとしていた。男3人で暮らす物語なのか? それくらいにしか考えていなかったけれど、いざスタートしたら、あら大変。サスペンスに人間ドラマ…にと、ただのヒューマンドラマだけでは、消化できないほどの内容が詰まっているではないか。
その中でも魅力を牽引していたのは、自閉スペクトラム症の役を演じていた坂東龍太が圧倒的だったと私は思う。この病気のことを熟知しているわけではなく、一般的な情報しか知らない。それでも彼らの様子が、坂東の演技を通して伝わってきた。
例えば足の指の独特な動かし方。裸足になったシーンでは、10本の足指を波打つように動かしている演技にドキッとした。坂東は障がい者のことをよく見て、知って、覚えている。他にも視線の動かし方、まばたき、発言しようとするときの息づかい。そこに坂東はおらず、生まれたときから自閉スペクトラム症である、美路人しかいなかった。
約30年間、私のように粛々とドラマだけを見ていると、障がい者を演じている作品にはたびたび出くわす。それが連ドラや、夏の2時間スペシャルドラマだったりするのだが、違和感を覚えることがほとんど。そのたびに自分たちは障がい者の存在に対して、敏感であることに気づく。私たちは弱者である彼らの気配を常に気にしている。守ろうともしているのかもしれない。
だからこそ忠実に演じてほしいという願望が大きい。でも放送されるたびに「?」の繰り返し。今まで吸い込まれた演技といえば、ユースケ・サンタマリアが演じたドラマ『アルジャーノンに花束を』(2002、フジテレビ系)のハル役くらいだろうか。あれから20年近く経過して、また正解に会うことができた。