異国の地でのワクワクと不安
そこで、中国人のヘンリーに大麻を吸わされて酩酊状態になったキャンディーが、なんとかその場から逃げ出したものの、荷物の取り違えによってタクシーの無賃乗車で逮捕されていたことが明らかになった。知り合ったばかりのヘンリーについていってしまったことは浅はかだったかもしれないが、日本という異国の地にワクワクと不安が入り混じった非日常の時間で、同じ言語を話す存在に警戒心が緩んだのだろう。
意識の飛びそうななかでキャンディーが開いたバッグから出てきたのは、大量の乾燥大麻。そこへ届いた父親からのメッセージに、キャンディーはタクシーのなかであることも憚らず泣き叫んでいた。意図して悪いことをするような、そんな人間じゃない。
キャンディーの聴取には、鴻田と出会う前の有木野も参加していた。そのときにキャンディーが黙秘を続けていたのは、中国では麻薬に関する犯罪が死刑に問われることもあるほどの重いものだから。名前を告げてしまうことで、自分の国や親へ連絡がいってしまうことを恐れていたのだ。
「言葉も通じない状況で40時間、さぞ心細かったでしょう。でも、もう大丈夫だよ」と、鴻田は優しく声を掛ける。鴻田がいてくれてよかった、と思った。同時に、もし鴻田がいなかったらどうなったんだろう? と不安にもなった。もしかしたら、荷物の取り違えという事実がわからないまま、キャンディーが大麻の使用や所持の罪に問われてしまっていたかもしれないのだ。