初回から衝撃…唐沢寿明は令和の喪黒福造? 鈴木保奈美のキャラに共感したワケ。『プライベートバンカー』第1話考察レビュー
木曜ドラマ『プライベートバンカー』(テレビ朝日系)が1月9日(木)よりスタートした。本作は、唐沢寿明演じる《悪魔的》凄腕プライベートバンカーが、大富豪の資産を守るためなら“何でもやる”痛快マネーサスペンス。今回は、第1話のレビューをお届けする。(文・西本沙織)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
——————-
【著者プロフィール:西本沙織】
1992年生まれ、広島在住のライター。会社員として働くかたわら、Web媒体でエンタメに関するコラムやレビュー記事の執筆を行っている。ドラマや映画、マンガなどのエンタメが好き。
”プライベートバンカー”とは?
「貯蓄から投資へ」が徐々に浸透してきた昨今。お金への関心が加速するなか、損をしてしまったという話を聞くことも少なくはない。失敗の一因には、知識不足があるという。1月9日にスタートした『プライベートバンカー』(テレビ朝日系)は、お金に対する価値観を刺激するとともに、正しい学びを授けてくれるドラマだ。
『ハラスメントゲーム』(2018、テレビ東京系)、『フィクサー』(2023、WOWOW)でタッグを組んだ西浦正記監督と唐沢寿明。約1年ぶり3度目となる本作では、唐沢演じるプライベートバンカーの庵野甲一が、資産家一族の金にまつわる問題を打破していく痛快マネーサスペンスが描かれる。
「プライベートバンカー」という職業に、なじみが薄い人も多いのではないだろうか。一言でいうと、“富裕層を相手に資産形成や資産管理のアドバイスを行うスペシャリスト”。
超高齢化社会の到来により富裕層マーケットが拡大するなか、プライベートバンカーの存在意義は高まりつつあるという。庵野は相続争い、愛人問題、裏金疑惑、経営争いにまで踏み込むというのだから、なかでもかなり特殊な存在なのかもしれない。
物語は、庵野が資産7000億円を誇る天宮寺アイナグループ社長・天宮寺丈洋(橋爪功)の依頼を請け負う場面から始まる。その内容とは、飯田久美子(鈴木保奈美)が2代目社長を務める「だんごの鶴松」を守ってほしいというもの。
融資を必要としていた久美子が徳川銀行・東堂誠也(袴田吉彦)の投資話に乗ってしまい、5億円の借金を背負うことになったのだ。久美子の前に突如現れた庵野は、配当などを装う投資詐欺の一種「ポンジ・スキーム」に引っかかったのだと指摘。失った5億円を取り戻すため、“経済的復讐”を持ち掛ける。
自分の価値は自分で作るもの
人脈を駆使して東堂や共犯関係にある宇佐美食研の社長・宇佐美卓也(要潤)に近づく庵野は、まさに神出鬼没。映画『キングスマン』(2014)を彷彿とさせるビジュアルと、「笑ゥせぇるすまん」の喪黒福造を思い起こさせる独特な雰囲気。そして隙のない雄弁さに、いつの間にか全員が庵野のペースに乗せられてしまうのだ。
いくら庵野がマネーのプロフェッショナルであっても、学ぼうとも行動しようともしない人間は救いようがない。富豪たちにとっても、「無知な庶民は無知なままで」いてくれた方が都合がいい。
視聴者に一番近いキャラクターであろう久美子の「世の中はお金持ちのために動いている」「弱い人間は騙されて搾取される」というセリフには、少なからず共感してしまう。
しかし、庵野に言わせてみれば、久美子を馬鹿にしているのは世間でも金持ちでもなく、久美子自身だ。何もできないとはなから決めつけていることこそが、自分を“無価値”にする一番の理由。庵野は「価値は自分で作るものだ」と教えてくれる。
キャッチコピー「紙くずが5億円になる方法がある――」の回収も鮮やかだ。そもそも、宇佐美が5億円もの借金を久美子に負わせたのは、彼女が宇佐美食研会長の愛人の子…つまり実の娘だと知り、相続するはずの遺産10億円の半分が奪われることを懸念したから。
庵野は久美子が死んだ母親から譲り受けていた紙くず同然の宇佐美食研の株券を武器に、宇佐美を揺さぶる。結果、詐欺など数々の不正が公になることを恐れた宇佐美は、ほぼ無価値の株券を株売却の税金を考慮した6億5千万円で買い取ることに決めるのだった。