兼下(瀬戸康史)が指令管制員に異動した理由
現場についた雪は、一度聞いた声や音を忘れない“耳”を武器に、想像力を働かせる。想像することで、雪自身の“あのときこうすればよかった”を咀嚼しているのだろう。
救急隊からの活動報告では、工場内の建物が多く、事故現場の特定に時間を要したとあった。いち早く場所を伝えるには、工場の前に案内人を立たせればいい、と兼下は言う。元消防隊員として、指令管制員の先輩として。培った経験がものをいう、的確な助言だった。
「現場第一主義」と悪態をつかれることもある兼下だが、小さな違和感を見逃さない観察力はさすがだ。事故があった「佐久山工業」は、危険物のずさんな管理体制から火事を引き起こす。火元のそばにあったのは、アルミニウムパウダー。
物質によっては水をかけると爆発を誘発するものもあり、アルミニウムの粉末はまさにそうだ。兼下の指摘により、被害は大きくならず終息。兼下の言葉を聞いて、すぐに放水を中止した消防救助隊長との連携にも、胸を熱くさせるシーンだ。
本回では、兼下の過去もフォーカスされた。兼下が消防隊から異動してきたのは、ある事故に遭ったから。消火活動中の火災現場での行動により、助けに来た後輩隊員に重傷を負わせてしまったのだ。後輩が消防隊を去ったことで、事故はさらに深い傷として兼下の心に刻まれることになる。
あのときとった行動は、消防隊員としての一線を超えていた。そのせいで現場を混乱させて、他人の人生を狂わせてしまった、と。現場に出向く雪を止めるのは、他人だけではなく、雪自身の人生をも変えてしまう可能性があるからだろう。理想や正義感を持っていたあの頃の自分と、仕事に真っ直ぐすぎる雪を重ねて見ているのかもしれない。