鱗形屋(片岡愛之助)の思惑
しかしながら、世の女性の購買欲をそそるには、それを身につけている人がそこそこ有名でなければならない。吉原にはそこまで名の知れた女郎はおらず、蔦重もまだ無名。ゆえになかなか呉服屋から協力を得られずにいたが、錦絵で有名な地本問屋の西村屋(西村まさ彦)が共同制作してくれることになり、風向きが変わる。
だが、それは鱗形屋(片岡愛之助)の差し金だった。無事に完成した錦絵を呉服屋たちに御披露目する場に、鱗形屋は同業者の鶴屋(風間俊介)を連れてやってくる。そして告げるのだ。「市中では、地本問屋の仲間うちで認められた者しか、版元はやってはならぬ定めがある」と。
つまり、仲間うちで認められていない蔦重の作品は市中で販売することができない。「一目千本」のように吉原だけで配ることもできなくはないが、それだと「市中の女性たちに着物を売りたい」という呉服屋側の目的が果たせなくなってしまう。そのため、蔦重は今からでも地本問屋の仲間に加えてもらおうとするが、それもできない定めだった。
完成した錦絵本「雛形若菜初模様」を市中で売り出すためには蔦重が外れるしかない。「吉原のため」と駿河屋(高橋克実)に説得され、蔦重は泣く泣く出版の権利を西村屋に委譲することに。
だが、そもそも西村屋が参画しなければ、錦絵の制作は進まなかったはず。それなのにわざわざ鱗形屋が彼を差し向けたのは何故なのか。それは蔦重に一度希望を見せた上で、どん底に落とすことで心を折り、彼が将来の商売敵になる可能性を徹底的に潰すためなのではないだろうか。