まだ未熟な蔦重(横浜流星)を見守りたい…。
蔦重には発想力も人脈もあり、何より胆力がある。けれど、ずっと吉原の中だけで育ったため、まだまだ世間知らずなところもなくはない。今回はそこを突かれた形となる。
「ちくしょう!ふざけんなよ!べらぼうが!」と悔し涙を浮かべながら、吉原を歩く蔦重。そのシーンでは、まだ20代前半の彼が抱える若さゆえの未熟さや反骨精神を横浜が瑞々しく体現しており、目が離せなくなった。ここから世間を知り、成熟した大人になっていく過程を見守りたくなる。
その頃、賢丸(寺田心)もまた己の未熟さを痛感させられていた。徳川御三卿の田安家から白河藩の松平家に養子入りした賢丸。
だが、直後に兄の治察(入江甚儀)が亡くなり、事前の取り決めでは、賢丸が田安家に戻って代わりに当主となる予定だった。しかし、田沼意次(渡辺謙)がそれを阻止する。
8代将軍・吉宗の次男・宗武を祖とする田安家、四男・宗尹を祖とする一橋家、長男・家重の次男である重好を祖とする清水家からなる御三卿はもともと徳川家の血筋を絶やさないために創設されたもの。だが、家を存続するにも費用がかかる。しかもすでに尾張家、紀伊家、水戸家からなる御三家が存在するため、意次は質素倹約の観点から田安家を潰そうとしていたのだ。
そこで意次は源内に依頼し、吉宗が御三卿創設の際に作成した公文書を改ざん。「田安・一橋両家の後継ぎがいない場合、家を断絶する」という一文を加えた。これには、吉宗を崇拝している賢丸も従わざるを得ない。
若くして将来を期待される聡明な彼もまた、狡猾な大人に足元をすくわれたのだ。だが、「今に見ておれ、田沼…!」と悔しさを滲ませる彼にも、蔦重に似た未熟さの中に光る輝きのようなものを感じる。そんな2人の人生はやがて交わるのだが、それは今後のお楽しみ。