親の介護で追い詰められる郁子(池脇千鶴)が見ていた世界
当初は「変な格好をした虚言癖のある中年女が、若い男に入れ上げて恋人もろとも斬殺した」と目されていたコンビニ店員殺人事件も、MRI捜査によって異なる様相を見せ始める。
「脳のMRI映像はひとりの人間の主観的な映像だ。客観性がない。今日見たものは裁判で言えば検察側の一方的な供述にあたる。弁護側。つまり容疑者、郁子の脳を見るまで判決は出すべきではない」
薪が語るように、MRIの映像は実際に起きた出来事ではなく、脳の持ち主の記憶から再現された一面的な映像にすぎない。そのことを実証するかのごとく、郁子が父親の介護によって受けた強いストレスは、彼女に美しい虚構の世界を見せるようになっていた。
自分が見目麗しい美貌の持ち主だと思い込み、メルヘンな服で自身を着飾る。しかし、周りから変な目で見られようと、虚言癖だと噂されようと、その美しい虚構の世界は彼女が現実から逃れて生きていくために必要不可欠なものだった。
たとえ善意ゆえの行動だとしても、安易に剥ぎ取られてはならない世界だった。