耕助(金子大地)がレストランを辞めた理由

『晩餐ブルース』第3話 ©「晩餐ブルース」製作委員会
『晩餐ブルース』第3話 ©「晩餐ブルース」製作委員会

 料理人を目指し、有名レストランに就職した耕助。「使えない」「トロい」と先輩たちから罵倒されても踏ん張り続け、メインの肉料理を任せてもらえるまでに。けれど、いつしか先輩たちに言われ、傷ついた言葉を自分も後輩に向けるようになり、辛い時に支え合ってきた同期の悩みにも先輩から辞めたと聞かされるまで気づけなかった。

 目標に向かって、ひたすら走り続けているうちに、自分の痛みにも他人の痛みにも鈍感になっていく。なかには、そのことも見て見ぬふりして進んでいける人もいるけれど、耕助はできなかった。彼もまた、“流せない”人間なのだ。

 自分が嫌になり、全てが馬鹿らしくなって仕事を辞めた耕助は「最低でしょ?」と痛々しく笑う。優太の「最低なんかじゃない」という言葉は、自分自身に向けたものでもあるのだろう。今の自分も同じだから。

 だけど、優太や耕助が悪いわけじゃない。問題は、心を鈍感にしなければ、生きていけない環境にあるのだと思う。

 使える、使えないというけれど、人間は機械ではなく感情を持った生き物だ。その感情を押し殺して機械のように働いていたら、いずれ身体も心も壊れてしまう。それは当たり前のこと。でも、簡単に世の中は変わらないから、晩活のように時折人間らしさを取り戻させてくれる場所が必要なのかもしれない。

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