清濁併せ呑む片岡愛之助の名芝居

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第6話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第6話 ©NHK

 この結果は蔦重の心に晴れぬ霧となって残ることとなる。蔦重は一切何もしていないのに、鱗形屋は勝手に自滅した。ましてや自分を貶めようとしていた相手。

 本来ならば、喜ぶべきところかもしれないが、蔦重が複雑な感情になるのは青本作りを通して鱗形屋の本に懸ける情熱を目の当たりにしたからではないか。蔦重と企画を練っている時、鱗形屋の目はキラキラしていて、まるで少年のようだった。

 そこはきっと蔦重と同じで、どんなに反感を抱いていても、本を作っている時だけは同志になれるのだと思う。いっとき、鱗形屋が良い人に見えたのはそのためだろう。だけど、ただの良い人でいてはやっていけないのが版元の世界なのかもしれない。

 明和の大火で蔵が焼け、その建て替えや道具の新調で金がかかった鱗形屋は経営的に厳しい状況にあった。家族を養い、従業員に給料を払うためには悪事に手を染めるより他なかったのかもしれない。

 まぁ、本当のところは分からないが、鱗形屋の清濁併せ呑む片岡愛之助の芝居により、完全な悪役ではないのかもしれないと思わせる余地が残されている。

 蔦重が偽版の件を密告したと思い込み、「このままで済むと思うな!」と捨て台詞を吐きながら去っていった鱗形屋だが、しっかり改心して二人がいつか再び肩を並べられる日が来たらいいなと願ってしまう。

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