白黒はっきりしていないからこそのリアル
一方、平蔵が「そいつは吉原の茶屋のもんだ。関わりねぇ」と証言してくれたおかげで難を逃れた蔦重は全て把握しておきながら、鱗形屋に警告しなかったことを悔いていた。
そこには、あわよくばという下心があったのは事実で、蔦重はそういう自分の醜さに初めて出会ったのかもしれない。入銀本を作る時に花の井を通じて平蔵から金を巻き上げたことはあるが、あくまでも吉原を盛り上げるためであり、自分の欲のためではなかった。
そんな、まだ純粋さを残す蔦重に平蔵は「世の中そんなもんだ」とあっさり告げる。吉原に通い詰めている時はどうしようもないボンボン息子に見えていたが、外の世界では社会の荒波に揉まれ、酸いも甘いも噛み分けてきたのかもしれない。
「濡れ手に粟餅。『濡れ手に粟』と『棚からぼた餅』を一緒にしてみたぜ。とびきりうまい話に恵まれたってことさ。おめえにぴったりだろ」と粟餅を手渡し、「せいぜいありがたくいただいておけ。それが粟餅を落としたやつへの手向ってもんだぜ」とかっこよく決めて去っていった。粋とは、こういう時に使うのだろう。
金々野郎には出せない、本物の風格。今回は歌舞伎役者である片岡愛之助と中村隼人の奥行のある芝居に魅せられっぱなしだった。
青本を作っている時に鱗形屋と蔦重は「悪い奴がいると話が面白くなる」と話していたが、それは物語に限ったことで、現実はそう簡単じゃない。
良い人間と悪い人間で白黒はっきりしているわけではなく、実際はグレーであることがほとんどで、それぞれ良いところも悪いところも持ち合わせているのが人間だ。だから複雑だし、面白いとも言える、人間社会のリアルが本作では描かれている。
(文・苫とり子)
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