人生に迷った者たちが集うお菓子教室

夜ドラ『バニラな毎日』第1週 第2話©NHK
夜ドラ『バニラな毎日』第1週 第2話©NHK

 突然始まったお菓子教室には真奈美によって、さまざまな苦しさや憤りを抱えた人がやってくる。完璧主義がどうしても解くことができず、自分を追い込んでしまう外資系コンサルタント。恋愛がうまくいかず、曲も浮かんでこなくなってしまった、スランプ中の人気ミュージシャン。母の死を受け止めきれない女性、身体障がいを持つパティシエ志望の女子高生。いずれも真奈美の姪の心理カウンセラーの元へ通う患者だった。お菓子作りはカウンセリング、リハビリのようなものである。

 そんな生徒たちを対岸の火事のように見ていたけれど、葵自身こそ完璧主義の果てに苦しんでいる人ではないかと思う勘づいた。素人に対して自分のルセット(レシピと同義)で教えているはずなのに、どうしても妥協ができない。修行中も材料を安価なものにすることはできなかった。それが重なって、今、葵は借金という現実を背負うことになっている。

 「少し手を抜けばいいのに? いや、違う。誰かを頼ればいいのに」

 ドラマを見ながらそんな思いが沸々としてくる。じゃあ、自分はできているのかというとそんなわけがない。原稿で些細なことは妥協ができない。そもそも完璧な文章は実在しないけれど、読んでくれる人のために最低限のプライドは守りたい。でもそれがクライアントと意見が合致しない場合も当然ある。そこで折衷案を出すのか、それとも妥協をするのか。ここで妥協を選ぶことができるなら、気持ちは楽になるけれどいつか悔やむ。このループが続く。そして苦しい。

 実際に『バニラな毎日』を観ている人、このコラムを読んでいる人。葵や私と業種、職種は違っても、同じような気持ちを持った人もいると思う。けしてそれが“悪”ではない。(自分で言うなではあるが)真面目な証拠だ。ただ、しんどすぎてすべてを投げ出したくなる前に、一歩、どこかへ出たほうがいいはず。

 葵にとって、その一歩が真奈美だったのかもしれない。

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