横浜流星“蔦屋重三郎”の魅力は低姿勢にあり? ビジネスマンこそ『べらぼう』を観るべきワケ。NHK大河ドラマを考察&解説

text by 西田梨紗

現在NHKで放送されているドラマ『べらぼう』。横浜流星演じる主人公・蔦屋重三郎は、写楽や喜多川歌麿などの絵師をプロデュースし、江戸のポップカルチャーを盛り上げたが、蔦重は徳川家康や紫式部のように誰もが知る人物ではない。今回は、なぜ蔦重がNHK大河の主人公のモデルに選ばれたのかを紐解いていく。(文・西田梨紗)

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【著者プロフィール:西田梨紗】

アメリカ文学を研究。文学研究をきっかけに、連ドラや大河ドラマの考察記事を執筆している。社会派ドラマの考察が得意。物心ついた頃から天海祐希さんと黒木瞳さんのファン。

今でいう“ガチャハズレ”である蔦重の境遇

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第1話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第1話 ©NHK

 近年、親や生まれ育った環境など運任せのことを揶揄するときに、“ガチャ”という言葉が使われている。“親ガチャ”出身地ガチャといった表現は、蔦重を演じる横浜とほぼ同世代の筆者にとって聞き慣れたものだ。真相はともかくとして、“都心で暮らす裕福な親のもとで生まれ育ったら人生が有利になる”と考える人はSNSを見る限り少なくなさそうだ。

 本作の主人公である蔦重は親もなく、カネもなく、家もない男…。今風の言い方をあえてすれば“ガチャハズレ”である。しかし、彼は出自をうらむことも、言い訳に使うこともなく、自らの力で人生を拓いていく。

 蔦重は女郎屋の主人たちや鱗形屋の主人・孫兵衛(片岡愛之助)から利用されたり、こき使われたりすることは少なくない。

 また、江戸時代は現代以上に生まれがものをいう時代であり、誰もがビジネスに新規参入できるわけではなかった。第4話と第5話では、版元に仲間入りできない蔦重の苦労が描かれていた。蔦重のような後ろ盾がない男が何かを成し遂げるのはむずかしく、まわり道を繰り返さなければならない。

 蔦重が現実の厳しさに直面しながらも人を信じ、明るく奔走する姿は、生きることに対して悲観的になりがちな私たちの心を打つ。彼の姿を見ていると、『オレもいっちょ一旗揚げてやろう!』と勇気がわいてくる。

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