横浜流星の芝居に思わず声が漏れる…。
蔦重が今の倍売れる細見を作ったら、地本問屋仲間に加えると約束した鶴屋だが、そう簡単に新参者の参入を許すはずがなかった。蔦重の細見が売れるのを阻止するため、鶴屋は西村屋(西村まさ彦)をそれとなく焚きつけ、別の細見を作らせる。
老舗で市中にも顔が効く西村屋が細見を作ったとなったら、蔦重がどんなにいい細見を作ったとて、どこも取り扱ってくれないのではないか。すっかり諦めムードの親父たちに、蔦重はこう語りかける。
「女郎の血と涙が滲んだ金を預かるなら、その金で作る絵なら、本なら、細見なら、女郎に客が群がるようにしてやりてぇじゃねえっすか! そん中から客選ばせてやりてぇじゃねえっすか!吉原の女はいい女だ、江戸で一番だってしてやりてぇじゃねえっすか!胸張らしてやりてぇじゃねえっすか!…それが女の股で飯食ってる腐れ外道の忘八の、たった一つの心意気なんじゃねえっすか」
全身から人情が匂い立つような横浜の芝居に思わずくぅ~!という声が漏れた。
吉原で行われていたことは、どんなに美化したとて人身売買だ。貧しい女性たちに借金を背負わせ、その借金を返すために女性たちが己の身体と尊厳を売って稼いだお金で、親父たちは生活している。吉原に生まれ、引手茶屋の養子となった蔦重もそう。どこまでいっても搾取する側の人間だ。
だが、蔦重は忘八にはなれなかった。せめて自分だけが良い思いをするのではなく、女郎にも良い思いをさせてあげたい。そういう矜持を持ったキャラクターであり、流石の忘八たちも心を掴まれたようだ。