同じ電車に乗り合わせた乗客に罪はあるのか?
新たに錦糸町のカプセルホテルで見つかった遺体は、里中恭子が電車内で口論になっていた、犯人のひとりと目されていた人物だった。
彼の死因が未知のウイルスによる感染症であり、その初期症状として爪の変色が現れていることを突きとめた青木と雪子は、これまでの連続殺人事件の被害者たちもウイルスに感染していたのではないかと疑い始める。
しかし、連続殺人事件と電車内で起こった可能性があるバイオテロが同時に発生したことの辻褄は合わない。やがて死に至るとわかっている者たちを、なぜわざわざ犯人は自らの手で殺したのか。そもそも、ふたつの事件は同一犯による犯行なのか。
謎は深まるばかりで、さらなる感染者も現れるなか、乗客たちの目撃証言は未だに出てこないまま。やがて、そんな乗客たちにも批判の矛先が向き始める。
彼らはたった数分間、同じ車両に乗り合わせただけだ。それなのに、未知のウイルスの危機に晒されながら、世間からは自業自得だと非難される。まるで新型コロナウイルス感染症の患者が、国内で発見され始めた頃のように。
確かに恐怖のあまりとはいえ、トラブルに対して見て見ぬふりをして、その後も沈黙を貫く乗客たちに非がないとは言いきれない。しかし、事件に関わる責任とウイルス感染による死の危険が近づいていることは、切り離して考えるべきだ。
青木も同様に考えたのだろう。姪が生まれたばかりの彼にとって、言われなき罪に苦しむ人々や若者たちの未来は、自身の危険を顧みずとも守らなければならないものだった。