大河ドラマ『べらぼう』考察&感想レビュー。“江戸のリアル”を体現する横浜流星の演技の魅力とは?
横浜流星主演の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合)が現在放送中。貸本屋からはじまり「江戸のメディア王」にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯を描く。今回は、横浜流星の芝居に着目して本作の魅力を紐解くレビューをお届けする。(文・加賀谷健)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:加賀谷健】
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修クラシック音楽を専門とする音楽プロダクションで、企画・プロデュースの傍ら大学時代から夢中の「イケメン研究」をテーマに、“イケメン・サーチャー”として、コラムを執筆。 女子SPA!「私的イケメン俳優を求めて」連載、リアルサウンド等に寄稿の他、CM やイベント、映画のクラシック音楽監修、解説番組出演、映像制作、 テレビドラマ脚本のプロットライターなど。2025年から、アジア映画の配給と宣伝プロデュースを手がけている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
メインタイトル「べらぼう」は“江戸の音”
今年の大河ドラマのタイトルは、『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合、以下、『べらぼう』)である。メインタイトルの四文字「べらぼう」は、現代の日本人にとってどれくらい馴染みがある言葉だろうか? 語感から江戸時代の粋くらいの意味合いだろうと理解出来るけれど、かといって江戸文化に明るいわけでもない者からすると、正確な意味や定義まではよくわからない。本作のチーフ・プロデューサー藤並英樹は、番組公式サイトで「そもそも「たわけ者」「バカ者」という意味でした。それが時を経て、「甚だしい」「桁外れな」という「普通を超える」様を表す言葉に変化」と解説している。
ともあれ、江戸時代を舞台にした時代劇作品で頻出するワードであることは確かである。例えば、江戸の人情やその原則に基づく人助けの粋を象徴する架空のキャラクター、一心太助を主人公とする作品群。杉良太郎が民放初単独主演を果たした『一心太助』(フジテレビ系、1971)では、第2話冒頭すぐに「べらぼうな世の中があってたまるか」という台詞がインパクトを放つ。横浜流星主演の『べらぼう』では、主人公・蔦屋重三郎が、第1回冒頭から「べらぼうめ」と発している。彼らは呼吸するようにべらんめえ口調の「べらぼう」を口にする。
数ある一心太助を主人公とする作品の中でも、傑出した出来栄えを誇る映画『江戸っ子祭』(島耕二監督、1958)でも、「べらぼう」という言葉は頻出する。初めてこの言葉が登場人物の口から呟かれるシーンを見てみよう。
長谷川一夫演じる一心太助が仕えるのが、大久保彦左衛門(中村鴈治郎)。彦左衛門から社会勉強を託された、後の三代将軍・徳川家光である竹千代(川口浩)と食事する場面。相手がまさか世継ぎとは露知らず、隣近所の娘・お豊(野添ひとみ)に現を抜かした竹千代のおでこを太助が「べらぼうめ」と言いながらコツンと叩く。つややかに乾いた音である。同作タイトルにある江戸っ子が、庶民文化圏で浮世離れする世継ぎを「普通を超える」存在として扱う。これがおそらく“江戸の音”なのだろう。「べらぼう」の意味合いについて聴覚的な理解を促す痛快なシーンだ。