江戸時代のしゃれに因んだ“ありがた浜の流星群”
吉原の茶屋に勤めながら、お客を呼び込む名目で革命的プロモーションの書籍をプロデュースする重三郎は、痛快、軽快、鳴り物入りの人物である。江戸中期の町人文化を牽引する存在として、二足の草鞋で奔走する。そのためには「やらせてもらいますぜぇ」と威勢よく、どんな仕事でも引き受ける。笑顔も行動も持続的な重三郎を演じ込める横浜は、軽さに軽さを重ねて、オートマティックな軽妙さをどんどん上書きしていくことで、重三郎像に自然と厚みを加えていくのだ。
吉原の案内書である吉原細見の改め作業を終え、次に花魁から元手を集めた入銀本を完成させた重三郎は、大きな達成感を感じる。茶屋以外の業務に邁進する彼を最初は認めなかった駿河屋が、最終的には後押ししてくれる第3回の場面が印象的である。駿河屋は、100人以上の花魁を花に見立てた入銀本を楽しんで読んだ。重三郎のプロモーションで吉原には活気が戻ってきた。義理の兄・次郎兵衛(中村葵)が、つたやに押し寄せるお客をさばけずにいるくらいだ。
夜店営業の吉原。店前に灯りがともる。喜びを噛み締める重三郎の表情が軒先で際立つ。その薄明りの中で、NHK作品初出演にして大河ドラマ初主演を務めた横浜流星による江戸っ子の所作が極まる。夜の帳がおりたオープンセット(撮影現場)に、さわやかな官能性を行き渡らせる。
色っぽく美しい。細見の序文を書いた平賀源内(安田顕)の言葉を借りて「嗚呼お江戸」と感嘆し、感極まる重三郎とともに随喜の涙を共有した横浜流星ファンは多いだろう。ありがた涙である。
第1回で田沼意次(渡辺謙)に直訴した重三郎は「ありがた山の寒がらす」と言っていた。「ありがたい」の語尾を「山」にする江戸っ子のしゃれ(地口)である。さらに横浜流星のファンネームを「流星群」という。江戸時代のしゃれに因んだ“ありがた浜の流星群”という本作オリジナルのべらぼうな地口を考案するのも粋だなと思う。
(文・加賀谷健)
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