ドラマならではの演出
今回のエピソードは原作のストーリーを遵守しながらも、ところどころでドラマならではの演出が組み込まれていた。もっとも大きな変更点と言えるのが、事件の重要人物だった王福龍(ウォン・フーリュン/藤間ロン)のバックグラウンドを詳細に描写したことだろう。
研究室で孤立していく様子や、母親からの手紙を読みあげる回想を加えたことにより、同じ故郷の言葉を話す里中恭子との出会いが、どれほど彼の生きる希望だったかが視聴者にもわかりやすく提示される。
彼が犯行に及んだ理由は決して許されないものだ。それでも、異国の地で出会った世界に数少ない母国語話者が、善意を踏みにじられて理不尽に殺されたときの絶望はどれほどのものだったろうか。
青木に問い詰められた際、彼が「あのとき、お前いなかった。もしいたら…あのときいたら」と絞りだした言葉には、言いようのない悲しみが込められていた。
今にも崩れ落ちてしまいそうな藤間ロンの渾身の芝居と、王福龍が犯行に及ぶに至った背景を長尺で描いたことにより、事件の輪郭はくっきりと浮かんでくる。何より本エピソードは、10年以上前に描かれたとは思えないほど、現代にも通ずる社会問題が内包されているように感じた。