曖昧になった自分の輪郭
耕助(金子大地)と葵(草川拓弥)がスーパーで出会った高齢の男性(渡辺哲)もそうなのだろう。若い頃、仕事ばかりしていたせいで、気づいたら友達と呼べる人がいなくなったという男性は「なんとなく自分の形が分かるような気がしてねえ」と自分の手と手を合わせる。逆に言えば、そうしなければ自分の形が常に曖昧ということだ。
ディレクターの木山(石田卓也)もきっと同じ。彼は要領が良くて、社会ではおそらく成功した人として見なされる存在だ。だけど、なかなか予約が取れない人気店に「一緒に行こう」と誘える相手は役職や苗字で呼び合う仕事仲間だけ。
「見栄も嘘もいらない。食パン一斤もらったら分け合えるような相手、木山さんにもいませんか?」という優太の問いにも答えに詰まる。その優太に誘いを断られ、代わりの相手を見つけようとスマホを開くが、思いつく人がいなくて途方に暮れる姿が切ない。