“足抜け”の先に待つもの

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第9話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第9話 ©NHK

 瀬川の正確な年齢はわからないが、蔦重が25歳くらいなので、少し若いとしても年季明け(27歳前後とされている)まで多く見積もっても5年未満だろうか。ただ過酷な労働環境に加え、性病などが原因で女郎は短命であり、平均寿命は20代前半だったと言われている。

 その上、嫌がらせのように客を取らされたら、瀬川の身体が年季明けまで持つかどうかわからない。蔦重は“足抜け”を決意。貸本にその旨を書いた文を挟み、瀬川に渡す。

 だが、時を同じくして新之助(井之脇海)とうつせみ(小野花梨)が足抜けを決行。うつせみを身請けするには300両必要だが、浪人の新之助には払えない。うつせみは新之助を呼ぶ揚代を稼ぐためにおかしな客を取らなければならなくなり、追い詰められた末の決断だった。

 2人は大門を突破するも、途中で追っ手に捕まってしまう。瀬川に見せしめる意味もあるのだろう、いねはうつせみを厳しく折檻した。

 とんだ忘八だと言いたくなるが、そこまでするのはいねの優しさでもある。彼女の「あんた養おうとあいつは博打。あいつ養おうとあんたは夜鷹」という言葉が物語るように、たとえ足抜けが成功したとしても、幸せになれるとは限らない。

 追われる身でお金を稼ぐには博打か、吉原よりも酷い環境で男を取るしかない。そんな例を、いねはいくつも見てきたのだろう。

 それよりも金持ちに身請けされた方がずっといい。いねが四代目・瀬川を「迷惑千万な馬鹿女」と吐き捨てるのは、名跡を潰したからだ。彼女が色恋にうつつを抜かした挙句、自害したせいで、瀬川は不吉な名跡とされ、今まで誰も名乗ることができなかった。

 それさえなければ、花の井のように、何人もの女郎が瀬川を襲名し、高値で身請けされていったかもしれない。だから、いねは四代目を許さない。彼女は彼女なりに女郎たちの幸せを願っているのだ。

 また、松葉屋の主人もいねも蔦重たちの件は他の親父たちに報告することなく、自分たちだけで解決しようとした。噂が広まれば、瀬川の身請け話がなくなり、蔦重も吉原にいられなくなるかもしれないからだろう。もちろん瀬川が身請けされれば、松葉屋も潤うし、100%の善意ではないにしろ、吉原で生まれた2人に対する愛情はある。

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