地獄にすら共に落ちることも許されなかった蔦重と瀬川
もしかしたら、蔦重の方がある意味、残酷かもしれない。吉原の女郎たちを、瀬川を、幸せにしてやりたい。それは立派な志だ。目的を果たすだけのアイデアもある。だけど、向こう見ずで、自分が行ったことの結果、どういうしわ寄せが誰に及ぶかまでは想像が至らない。そういう青臭さが、誰かを苦しめることもある。
でも、自分と一緒になりたくて足抜けの方法まで考えてくれたことが瀬川は嬉しかったに違いない。いねの「ここは不幸なところさ。けど、人生をガラリと変えるような事が起きないわけじゃない。そういう背中を女郎に見せる務めが、瀬川にはあるんじゃないかい?」という言葉を受け、鳥山に身請けされることを決意した瀬川。
本の感想を伝える体で、「この馬鹿らしい話を重三が勧めてくれたこと、きっとわっちは一生忘れないよ。とびきりの思い出になったさ」と告げる。本に挟まれた文の一部は、破られていた。ようやく始まった2人の恋は一炊の夢の如く終わったが、瀬川はその思い出を文の一部とともに嫁ぎ先にも持っていき、心の支えにするのだろう。
第9回のサブタイトルは「玉菊燈籠恋の地獄」。女郎たちにとって、恋は地獄の始まりでもあった。その地獄にすら共に落ちることも許されなかった蔦重と瀬川の恋を、切なくも美しく彩った森下佳子の脚本にただただ唸らされる。
(文・苫とり子)
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