死者が見ていた世界を忠実に再現する『秘密』

ドラマを通して徹底されているのは、事件に関わる人々の目線を明確に映し出すこと。
MRI映像は死者の記憶を映像によって再現するがゆえに、彼らが死ぬ間際に見ていた光景や衝撃的な場面に出くわしたときの視界が作品内でも頻繁に登場する。
だからこそ、ドラマではそんな死者が見ていた世界を忠実に再現している。ナイフを持って無表情で佇む姿や、明確な悪意を感じさせる表情。死者の目線を通して、視聴者は物語の世界に没入していく。
死者の脳から見た最期の景色は、犯人や死に対する怯えが混じっていることが多い。しかし、葵の兄・尚(橋本淳)の記憶を辿って再現された世界は、妹への慈しみに溢れている。そして、死に際でも葵へと手を伸ばす彼の表情には、妹を残して死んでいくことへの後悔が刻まれているように感じた。
アパートに駆けつけた雪子に「お兄ちゃんが戻ってきてくれた」と泣き叫びながら抱きつく葵の姿は、幼い少女そのもの。映像でもリンクするように、幼き日の姿へとキャストが変わる。
尚の妹に対する後悔の念は、いつまでも消えることはなかった。同時に、彼女にとって兄はあの頃から変わることのない、自分を危機から救ってくれるヒーローのままだったのだ。