「良い夫」が唯一の目標だった

『晩餐ブルース』第7話 ©「晩餐ブルース」製作委員会
『晩餐ブルース』第7話 ©「晩餐ブルース」製作委員会

 家賃も広さも条件に合っているけど、駅から徒歩20分かかるアパート。葵は特に不満を感じていなかったが、京子は暗い夜道を20分かけて帰ることに恐怖を感じていた。

 変な人に付き纏われてしまうかもしれない、襲われるかもしれない。男性もそういう被害に遭わないというわけではないが、女性の方が被害に遭う可能性は高いし、自分よりも力の強い男性に襲われたら抵抗する術がない。

 男性であり、そういうリスクが限りなく低い耕助は駅から20分かかることはさして問題がなく、むしろそのおかげで広い家に安く住めると前向きに捉えられる。

 名字のこともそう。男であるというだけで知らないうちに得していることに気づいた葵。そう認識した上で、京子と向き合うこともできたはず。

 けれど、葵は逃げた。なぜなら、良い夫になることが、他にやりたいことが見つからなかった葵にとって唯一の目標だったから。だけど、自分が男でいる限り、良い夫にはなれないという事実に耐えきれず、逃げてしまったのだ。

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