ドラマ『水平線のうた』考察レビュー。さすがのNHKクオリティ…震災の捉え方が変わったワケ。もっとも胸打たれたセリフとは?

text by 望月悠木

3月1日、8日に前後編に分けて放送されたNHKドラマ『水平線のうた』。東日本大震災の被災地・宮城県石巻市と女川町を舞台にした、作曲家・岩代太郎氏原案のヒューマンドラマだ。震災の爪痕の深さを再確認し、震災との向き合い方も考えたくなる本作について語りたい。(文・望月悠木)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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【著者プロフィール:望月悠木】

フリーライター。主に政治経済、社会問題、サブカルチャーに関する記事の執筆を手がけています。今知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けています。(旧Twitter):@mochizukiyuuki

ドキュメンタリー作品のような質感

『水平線のうた』©NHK
『水平線のうた』©NHK

 本作の主人公は、東日本大震災で家族を失った大林賢次(阿部寛)。彼は「津波で亡くなった人の霊が乗客となる」という話を聞き、「妻子に会いたい」という思いから13年前にタクシー運転手に転職した。

 ある日、たまたま乗車した女子高生・阿部りら(白鳥玉季)が口ずさんだメロディーが、妻と娘が生前に練習していた曲であることを思い出す。そして、賢次は13年間止まっていた時を動かすため、りらと一緒にその曲の楽譜を探し始める、という物語だ。

 本作の見どころはエンターテインメントとドキュメンタリーのバランスの良さだ。

 賢次は、妻子が練習していた曲は賢次との結婚10周年を記念して四重奏で演奏される予定だったことを、早苗の高校時代の恩師・菊池敏子(加藤登紀子)から聞く。そして妻・早苗と共に演奏するはずだった他の2人は震災で命を落とし、残るクラリネット担当だった敏子の夫は7年前に病で亡くなっていたことを知るのだった。

 その後、亡くなったメンバーの関係者を訪ねる賢次。チェロ担当の田中隆の父親・剛(渡辺憲吉)と母親・みどり(円城寺あや)、従弟・谷口明(前原滉)、続けてフルート担当だった前田和子の職場の後輩・小林雪乃(キタキマユ)らが、震災で亡くなった仲間の思い出や、2011年3月11日当時の状況を振り返る。

 多くのシーンで、話し手にカメラを向けつつ、聞き手として耳を傾ける賢次の後ろ姿や横顔をフレームに入れ込む、ドキュメンタリーのようなアングルが採用されている。加えて、彼らが話している最中は彼らの声以外、一切音はない。静寂は話し手たちの言葉や表情が際立たせ、その悲痛な思いが視聴者に鋭く突き刺さる。

 本作は被災者の心情をありありと示すシーンの連続で、さながらドキュメンタリー作品だ。とはいえ、賢次とりらの掛け合いは笑いどころもあり、終始重苦しいわけではなく、エンターテインメントとしても楽しめる。

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