「なんで大人だけが悲しんでると思ってるの?」
りら(白鳥玉季)の言葉に気づかされたこと

『水平線のうた』©NHK
『水平線のうた』©NHK

 印象的だった劇中でのやり取りについても取り上げたい。前編のラスト、賢次が過去に撮影した妻と娘の動画を見ながら目を潤ませていると、「そこの泣き虫おじさん、いつまでメソメソしてんの?」とりらに言われ、賢次はとっさに「子供にはわかんねえよ」と返す。

 2人が練習していた曲を誰かに演奏してもらうことをりらは提案するが、賢次は自分のためだけに演奏してもらうのはどうかと難色を示す。するとりらは「私は聴きたいよ」と声を荒げ、「なんで大人だけが悲しんでると思ってるの?」「なんでうちらはなんも感じてないと思ってるの?」と激高する。

 東日本大震災が起きたのは2011年で、もう14年も前のこと。読者の中にはまだ生まれていなかった人もいるだろう。また、当事者でも記憶がおぼろげであってもおかしくはない。「子供にはわかんねえよ」と口にした賢次のように、筆者自身、震災の記憶を同世代~上の世代間で封じ込めようしていたことに、りらの言葉によって気付かされた。

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