前を向くことを許してくれる作品

『水平線のうた』©NHK
『水平線のうた』©NHK

 さらにりらは「13年頑張ってきたこの曲がさ、おじさんがメソメソ泣くためだけにあるって、もったいなくない?」「てか、ありえないでしょ、涙ふけ。悪いけど私、そういう涙見飽きてんだわ。そろそろハッピーにいこうよ」とも言う。

 テレビで語られる時も、誰かと直接話す時も、震災の思い出に触れる際には悲しみや苦しみが先行していたように思う。むしろポジティブな感情を抱くことは“不謹慎”とさえされていた印象が強い。

 そのため、未練や後悔を長年抱き続けてきた賢次の過去を肯定すると同時に、前を向くように背中を押す「そろそろハッピーにいこうよ」という言葉には、意表と核心を同時につかれた気持ちになった。

 震災を題材にしたドラマや映画は少なくない。ただ、前を向いて良いのだとを“許してくれる”作品は珍しい。『水平線のうた』は震災で大切な人の命を奪われた人たちの心情を丁寧に描きつつ、震災との向き合い方を改めて考えさせてくれる優しくて力強い作品だ。

(文・望月悠木)

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