瀬川の門出の日がついに――。
そして迎えた瀬川の門出の日。蔦重は完成した本を、瀬川に渡してほしいと松葉屋(正名僕蔵)に託そうとする。すると、松葉屋は気を利かせたのだろう。「忙しいから自分で渡せよ」と蔦重を促す。
幸いにも蔦重と瀬川が恋仲だったことは、親父たちの中で松葉屋と女将のいね(水野美紀)しか知らない。「え、なんでダメなの?」としらを切る松葉屋の優しさが沁みる。その粋な計らいのおかげで、蔦重は最後に瀬川と2人きりの時間を過ごすことができた。
「それが一番お前らしい姿だと思ってよ」と蔦重が開いて見せたページの中で、本を読む自分の姿に涙する瀬川。「こんな風に描かれると楽しかったことばかり思い出しちまうよ」と言うが、実際は楽しいことばかりではなかった。
借金を返すためには、嫌な客も相手にしなければならない。恋をすることも許されず、足抜けでも企もうものならば折檻される。病気になれば隅に追いやられ、まともな食事にもありつけず、2人を繋いでくれた朝顔(愛希れいか)のように命を落とすことも。
けれど、その朝顔が「どうせなら思いっきり楽しい想像を」と教えてくれたから。蔦重と瀬川は折につけて空想の世界に浸ってきたし、それが辛い現実を乗り越えるための力にも、時には吉原のピンチを救う手立てにもなった。
だからこそ、蔦重は馬鹿らしい夢を描くことを辞めない。吉原の女郎は人々にとって高嶺の花で、誰もが豪勢な身請けを決め、年季が明ける前に胸を張って大門を出ていく。そのうち、あそこに行けば道が開けると女性たちが希望を持ってこられるような場所にする。
そんな夢のまた夢のような話を瀬川と笑い飛ばしながらも、「でも、お前も同じだったんじゃねぇの?こりゃ、2人で見てた夢じゃねぇの?」と語りかける蔦重。
そう、瀬川も蔦重と同じ夢を見ていた。最初は愛しい蔦重の力になりたいという乙女心からだったかもしれないが、いつしかその夢は瀬川の夢にもなり、だからこそ後に続く女郎たちの憧れとなるべく今回の身請け話を受け入れたのだ。