たとえ二度と会えなくても”べらぼうな夢”が2人を繋ぐ
別れの瞬間、2人は涙を流さなかった。離れ離れになっても、べらぼうな夢がこれからも自分たちを繋げてくれるから。
瀬川が吉原を出た後も、彼女が幸せに暮らしているらしいという噂が流れるたびに女郎たちは希望を持ち続けられる。一方の蔦重はそんな瀬川が一つの故郷である吉原を誇らしく思えるような場所にするための本を作り続ける。
何気ない日常の中でも互いを近くに感じることだろう。つまり、2人の恋が永遠になったと言っても過言ではないのではないだろうか。
瀬川の「おさらばえ」は、同じく森下佳子が脚本を手がけたドラマ『JIN-仁-』(2009~11、TBS系)の中で中谷美紀演じる花魁・野菊が言ったそれを思い起こさせた。
どちらも物悲しさと希望のある響きで、後ろ髪を引かれながらも決して振り返らない矜持を感じさせる。私たちは小芝風花が見せた瀬川花魁の姿を忘れることはないだろう。小芝は気高く凛とした美しさの中に1人の女性として蔦重に恋する瀬川の可憐さを忍ばせていた。
そして蔦屋が「青楼美人合姿鏡」を見物客に売り捌く活気に溢れた吉原の空気を感じながら、大門を出た瀬川は鳥山のもとへ。盲目の彼には、言葉を交わさずとも心で通じ合っている蔦重と瀬川の別れは見えていない。
されど、敏感に物事を察知する鳥山のことだから何かを感じ取ったことだろう。少なからず、瀬川の心が別のところにあることには気づいたはずだ。
とはいえ、これから蔦重と瀬川は滅多なことでもなければ会えない。下手したら二度と会えないかもしれない、その耐え難き苦しみを耐え、未来に種を蒔いた2人。
一方、田沼の策略により白河藩への養子入りが決まった賢丸(寺田心)も家治(眞島秀和)の嫡男で、同じく吉宗の血を引く家基(奥智哉)に取り入ることで種を蒔く。さて、その種は先の時代でどのような花を咲かせるのだろうか。
(文・苫とり子)
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