30年以上家族に尽くしてきた史枝(戸田恵子)
ただ、その幸せな生活は史枝の犠牲の上に成り立っていたとも言える。おもちゃ会社での仕事にやりがいを感じていたが、時代が時代なこともあり、結婚と同時に退職して専業主婦になった史枝。幸之助は仕事一筋で、家事や子育ては任せっきりだったのではないか。
もちろん、史枝も一部では恵まれているところもある。幸之助は昔かたぎの男だけれど、浮気はしたことがない。これまで支えてくれた史枝に海外旅行をプレゼントしようとするだけの優しさも愛情もある。
幸い同居している義母の富子も史枝に理解があり、嫁姑問題とは無縁だ。大学生になっても、自分と離れ離れになるのが寂しいと泣いてくれる息子もいるし、決して不幸せではない。でも、心から幸せとも言えないという史枝のような女性は多いだろう。
専業主婦には退職がないから、その状態が下手したら死ぬまで続く。本当にこのままでいいのか? 死ぬまでにやりたいことはないのか?と史枝は考えたはず。そして考えた結果、見つかったのが「ブックカフェを開業したい」という夢だった。それは、これからは自分の人生を生きたいという願いでもある。
史枝は少なくとも30年以上は、夫や子供に尽くしてきたのだから、決して贅沢な願いではない。それに幸之助が60年間立派に勤め上げられたのは、史枝の支えあってこそ。そう考えたら、退職金の一部くらい、自由に使わせてもらってもいいのではないだろうか。