「勝手に想像しろ」では本心は伝わらない

『わが家は楽し』©TBS
『わが家は楽し』©TBS

 一方で幸之助の気持ちもわからなくはない。自分は史枝を幸せにしているつもりだったのに、そうじゃなかった。しかも、離婚を突きつけられ、自分が史枝の人生に必要ないと言われたみたいで寂しかったのではないだろうか。

 意地を張り、史枝と話し合おうともしない幸之助。和夫も遥もどうにか2人の仲を取り持とうとするが、「うちの息子の、幸之助という人間が成長しなければならないの」と富子が言う通り、解決するには幸之助が変わるしかない。

 そのきっかけを与えたのが、和夫の恋人・美鈴(山田杏奈)だ。美鈴の実父は幼い頃に突然姿を消し、のちに母親は再婚するもその人もロクでもない人で離婚。女手一つで育てられた美鈴は愛が永遠ではないことも、幸せが当たり前ではないことも知っている。

 そんな美鈴の「俺は愛してるんだ、そっちの方で勝手に想像しろというのは本当に愛している態度とは言えないと思います」「口先だけの調子のいい言葉ではなく、本当に心のこもった言葉で自分の思いを伝える。それができるはずです」という言葉が幸之助の心に刺さったのだろう。

 すぐには受け入れられなかった幸之助だが、酒の飲み過ぎで病院に運ばれた時、「家に帰りたい」と思った。

「帰りたくないな。でも、一番帰りたい場所なんだよな」という本作のポスタービジュアルに書かれた言葉が全てを物語っている。家に帰りたくない時もあるけれど、心のどこかではいつも帰りたいと願う家。それを作ってくれていたのは史枝だ。

 幸之助はこれまでの感謝を言葉にして告げ、史枝が一番望む離婚届を渡す。そのおかげで史枝は自分のしてきたことは間違いじゃなかったと人生を肯定することができたのではないだろうか。離婚を撤回し、これからも幸之助と生きていくという選択を取る。

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