髙橋海人の絶妙な言い回し

『わが家は楽し』©TBS
『わが家は楽し』©TBS

 今ある幸せを当たり前だと思わないこと。感謝も愛情も言葉にして伝えること。本作に込められたメッセージや、構成も演出もとてもシンプルだが、ちゃんと胸に刺さるのはそれぞれの心の機微が丁寧に描かれていたからだろう。

 小日向文世、戸田恵子、岩崎加根子らベテラン勢の演技が素晴らしかったのは言うまでもないが、若手俳優陣もしっかりと爪痕を残した。

 特に印象的だったのが、和夫役の髙橋海人。山田洋次が紡ぐ台詞の数々は明瞭で美しいが、若い人にはあまり馴染みがなく、今時の若者である和夫から放たれると他の人だったら違和感が出てしまうかもしれない。

 けれど、髙橋は絶妙な言い回しで特徴のある台詞を乗りこなしつつ、和夫のキャラクターも最後までブレなく表現していた。『だが、情熱はある』(2023、日本テレビ系)でもオードリーの若林を“完全再現“していたが、髙橋の役への浸透力には目を見張るものがある。

 山田杏奈や桜井ユキも完璧に、山田洋次と石井くに子が描く世界の住人になっていて、一夜限りのスペシャルドラマで終わらせるのはもったいない気も。今回は一応ハッピーエンドで終わったが、史枝はブックカフェを開業できたのか、富子が老人ホームに入ると言っていた話はどうなったのか…など、気になる点もまだ残っている。

 連ドラは難しいかもしれないが、1年に何度かスペシャルドラマとして放送してほしい。何より90歳を過ぎても自分の作品を世に送り続ける山田洋次と石井くに子のバイタリティは、幅広い世代に力を与えるのではないだろうか。

(文:苫とり子)

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【了】

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