いつの間にこんないい女に…大河ドラマ『べらぼう』、小芝風花の“対応力”が発揮されたエピソードとは? 3月の放送を振り返る

text by 小林久乃

横浜流星主演の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合)が現在放送中。貸本屋からはじまり「江戸のメディア王」にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯を描く。今回は、3月の物語を振り返るレビューをお届けする。(文・小林久乃)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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【著者プロフィール:小林久乃】

出版社勤務後、独立。2019年「結婚してもしなくてもうるわしきかな人生」にて作家デビュー。最新刊は趣味であるドラマオタクの知識をフルに活かした「ベスト・オブ・平成ドラマ!」。現在はエッセイ、コラムの執筆、各メディア構成、編集、プロモーション業などを生業とする、正々堂々の独身。最新情報はこちら

「背徳感のある恋」にしびれた

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第8話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第8話 ©NHK

 3月、大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜(以下、べらぼう略)』(NHK総合)の放送が第12話まで終わった。『べらぼう』は主演・横浜流星による、日本のメディアを創始したと言われる蔦屋重三郎(つたや・じゅうざぶろう、以下蔦重略)の生涯を描いた物語。この時期に咲いては散る桜のように、週ごと、新ネタが尽きず、脚本家・森下佳子の妙にくすぐられているようである。そんな3月の『べらぼう』を振り返る。トピックとしてはやはり「背徳感のある恋」だろうか。

 視聴者も固唾を飲むように見守っていた、蔦重と花魁・瀬川(小芝風花)との恋。第9話でやっと……やっと……鈍感な蔦重の恋心が開花したと思ったのに、そんなにうまくは進まず。鳥山検校(市原隼人)への身請けが決まりかけていた松葉屋一派は、ふたりの恋路の邪魔をする。客に抱かれる瀬川を蔦重にわざと見せるシーンがあったけれど、あれは大河ドラマ、NHKにおいてもかなりの際どさだった。もちろん、男心も揺れた。

「このバカらしい話を重三(じゅうざ)が勧めてくれたこと、きっとわっちは一生忘れないよ」

 もうこの恋は進まない。好きになればなるほど、環(わ)も好きな人も不幸にしてしまう。それを感じ取った瀬川は本の物語になぞらえて、自分の思いを蔦重に告げる。彼女は思い出だけを胸に、鳥山の元へ向かう決意をする。独身同士の恋なんてそんなに悪いものではないけれど、今でも飲食店で接客の女性と、店で働く男性の恋愛は許されないものであると聞くし、実際に逃亡したカップルの話も聞いた。舞台が江戸時代となれば、不倫よりも許されない恋だったのだろう。

 強い決意を秘めた瀬川の花魁道中は最終話なのかと思うほど、迫力に満ちたものだった。それを演じた小芝風花には拍手喝采。ずっと「元気で良い子!」と言ったパブリックイメージが強かったけれど、いつの間にこんないい女になっていたのだろうか。

 彼女の『あさイチ』(NHK総合)出演時、色々と瀬川に関する秘話を披露してくれたけれど、私が一番気になったのは対応力の高さだった。番組冒頭、衣装の片方のイヤリングが落ちてしまうハプニングが。生放送なので通常であれば、カメラの映らないところで付け直す。ただ小芝はパッともう片方のイヤリングも外して、そっと自分の背後に隠した。そもそもイヤリングのスタイリングはなかったと見せる対応力。あれは瀬川に通ずるものだった。

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