鱗形屋(片岡愛之助)の怒り
少なくとも鱗形屋を蹴落としたいわけじゃない蔦重は救いの手を差し伸べるが、その余裕ぶりが余計に鱗形屋の神経を逆撫でする。
「てめえは本屋じゃなくていいだろうが。あんな立派な茶屋があるだからよ!」と蔦重に本屋商売からの撤退を迫る鱗形屋。ただのやっかみにしか見えないが、彼の気持ちも分からなくはない。
蔦重自身はお金があるわけではないが、拾われた身とはいえ、吉原に大きな茶屋を構える駿河屋(高橋克実)の息子としてある程度は将来が約束されている上に、身内からお金を借りて本を作ることができる。
かたや、鱗形屋は本屋一本で妻子と従業員を食わせていかなければならない身。そんな鱗形屋からしてみれば、蔦重のやっていることはボンボンのお遊びにしか見えないのかもしれない。
それでいて才能があるから、腹も立つし、焦るのだろう。鱗形屋が蔦重に向ける怒りは、「俺から商売を奪わないでくれ」という叫びでもあるのだ。