本に携わる全ての人へのエール
生まれて初めて自分が恵まれていることに気づいた蔦重は、「皆がつきまくる世ってな、ねえもんですかね」と源内(安田顕)に零す。穿った見方をすれば、それもまた恵まれているからこそ出てくる言葉だが、青臭い理想論などとは決して馬鹿にしないところが源内の魅力だ。
源内は「おめえさんが世の人をつきまくらせりゃいいんでねぇの」とした上で、こんなことを言う。
「本ってなぁ、人を笑わせたり泣かせたりできるじゃねえか。んな本に出会えたら人は思うさ。『ああ、今日はついてた』って。本屋ってなぁ、随分と人にツキを与えられる商いだと俺ゃ思うけどね」
そこには、今も昔も変わらない普遍性がある。きっと多くの人が一度は経験したことがあるのではないだろうか。人生どん底の時にふと読んだ本に救われたり、全然そんな気分じゃなかったはずが本を読んでいる間に自然とケラケラ笑っていたり。幼少期の蔦重にとって、本の世界は辛い現実から逃げ込める場所でもあった。
今ある状況が何も変わらなかったとしても、本があるだけで救われる人がいる。だから、本屋はこの世になくてはならない商売なのである。源内の台詞は蔦重に向けたものだが、本に携わる全ての人へのエールにも聞こえた。